コーカサス
(民族紛争で停戦中のアゼルバイジャンコーカサスを訪れる)

旧ソビエト製 BJジープの前で記念撮影する目に輝きがない少年(撮影 淳郎)
紛争は少年達の目の輝きまで奪ってしまう

1997年4月、僕、淳郎は、アゼルバイジャン共和国とアルメニア共和国との間の領土問題でたくさんの負傷者を出した、ナゴルノカラバフ紛争地近くの停戦中のアゼルバイジャン・コーカサスの名も知れない小さな村を訪れた。停戦中の小さな村で出会った小さな家族たちの、乳酒と食事をご馳走になる、貧しい中にもひたむきに生活する村の人々たちに生きることとは何か?? という教訓を学んだ!!

ナゴルノ・カラバフ紛争
(1988〜1994 その後一次停戦)
旧ソ連の一構成国だったアゼルバイジャン共和国内にある飛び地のナゴルノカラバフ自治州に住むアルメニア人は1988年2月、州の帰属をアゼルバイジャンから隣国のアルメニアに返還するように要求しました。一方のアゼルバイジャン側はそれを拒否し、衝突を繰り返したのがナゴルノカラバフ紛争です。
1994年5月にロシアの仲介で停戦に合意しましたが、ナゴルノカラバフ自治州は事実上、アルメニアに占領される形となりました。この紛争では、犠牲者約20,000人、難民1,000,000人が出ました。 全欧安保協力機構(OSCE)によるミンクス和平会議が和平の促進に当たっていますが、強硬派による「ナゴルノカラバフ共和国」(1992年1月独立宣言)では、独立強硬派のグカシャン氏が1997年、大統領に就任するなど、緊張が続いています。

少年との出会い
(メヘルバン君)
アゼルバイジャンの首都カスピ海に面したバクーから、グルジアへと伸びる幹線道路。昔はシルクロードであったにもかかわらず、昔の古都の面影はまったくない。僕の乗せたオンボロバスは、12世紀の古都シェマハ郊外の、無名の村へ着いた。紛争の原因となったナゴルノカラバフ自治州の南にある無名の村は、ゴーストタウンのようだった。 この無名の村で、一人の疲れきった少年にあった。 半日、少年と村で過ごすことになる。
紛争でゴースト化した村と元気のない少年と淳郎(中央)知らない不気味な人物(左)
虚ろな目をした少年は、この村をガイドしてくれることになった。少年にロシア語で“お酒を飲みたい”と書かれたノートを差し出すと、少年は笑みを浮かべ歩き始めた。言葉は通じないが少年を信じて後を歩いた。

紛争地の南に位置するこの村に住む多くの難民たちは、水も食料も十分でない環境下で生活をしている。給水車から何度も往復して水を運ぶ親子たち
少年は突如優しい顔立ちになり、痩せた子牛のほうへ歩みだした。ふと思った、子供達には学校がないのか?この少年は友達がいないのかと???
アゼルバイジャンには92年に導入された“マナト”という通貨が存在するが、子供達は、お金より子牛のほうが大事だと言い切る。なぜなら、コーカサスの食生活は子牛の乳製品でなりたっているからだ!!
子牛を可愛がる少年、少年の家の子牛なのだ!!
少年は僕を、1件の小さな家に導いてくれた。そこは少年の家で、全く笑顔のないお父さん、昼食の料理を用意している痩せたお母さん、小さな無邪気な少年の兄弟3人が日本からきた僕を笑顔で迎えてくれた。そして、質素な本物の子牛の乳で造ったコーカサス料理を腹一杯ご馳走してくれた。

コーカサスの典型な食事風景
少年の子牛から造った、ヨーグルト料理とラバシ(クレープ)を庭先でとれた自家製の野菜。まさに自給自足の生活である。
メヘルバンの家族と乳酒(ケフィール)で乾杯をする淳郎(中央)
テーブルには本物のコーカサス料理が、(左から)“カトック”、“トゥオルク”、“ラバシ”、そして美しい花瓶にはいった美しい花。

メヘルバン少年は、僕がお酒を飲みたいといった、わがままな要求を自宅に招待してコーカサスのお酒をご馳走してくれたのである。
ここコーカサスには、貧しい中にも日本人が忘れかけた何かがある。

コーカサスの酒
ケフィール
(Kefir)

古くからコーカサス地方およびブルガリアで造られている牛乳酒。
羊や山羊の乳を用いることもあるが、一般に、牛乳を醗酵させ、醗酵がとまるごとに新しい乳を加えて醗酵を断続させながら造る。この醗酵には、乳酸醗酵酵母菌や乳酸菌をはじめ数種の酵母菌と細菌が作用する。この名はケフィールをいう黄褐色の穀粒をいれるところからつけられたもので、アルコール分は低く1%ぐらい、酒というよりも乳酸飲料に近く、胃腸病、貧血、虚弱体質に聞くと言われている。
クミス
(Kumys)

コーカサスの特殊な香りをもった馬乳酒またはラクダ乳酒
太古の中央アジアの遊牧民族。特にスキタイ人の間で知られていたことは、紀元前5世紀のヘロドトスの記述にもあり、その名は古代アジアのクマン人に由来するといわれている。雌馬、そきにはラクダの乳を醗酵させた飲料で、昔は皮袋を用いたが、地方によって木桶とかガラス瓶を用いている。アルコール分は、ケフィールと比べいくぶんか強いが、乳酸は少ない。貧血病、壊血病など効能があるといわれており、今日でも日常的な主要飲料になっている。
アリカ
(Arika)

コーカサス地方の牛乳、山羊乳、羊乳を醗酵させてつくったケフィール(Kefir)酒を蒸留して造った無色透明の蒸留酒。アルコールは25℃〜40℃とさまざま

メヘルバン一家との別れ


(メヘルバン一家との別れ、遥か向こうにみえる小高い山は紛争の原因となったナゴルノ・カラバフ地区)
左からお父さん、お兄ちゃん、2人の妹、陽気なちびっ子、メヘルバン君、淳郎

この旅での教訓
紛争にて多くの難民を生み出している、無名の部落にて、紛争や戦争は人間の命だけでなく、子供達の瞳の輝きまでも奪ってしまう。しかし、最悪の環境においても、1人の純粋な心を失わないメヘルバン少年との出会い。メヘルバン一家全員で持て成してくれた自家製の1杯の“ケフィール”(乳酒)を生涯忘れることはないだろう!!
どんな環境においても絶対に少年時の素直な心は、大人になっても少年時代のままでいなければいけないんだ!!  大人になれと、世間からいわれても子供の心は持ち続けよう。メヘルバン少年が少年の気持を持ちながら大人になれば、領土問題、人種問題を抱える国の紛争は絶対に消えるだろう。 皆さん!! どんな最悪時の情況に見舞われても。少年時の純粋な心と夢を持とう!!

21世紀に入っても、ナゴルノカラバフ領土問題は未だに解決されていない
難民問題、緊迫の日々が続いている