ヴィニフィカシオン
(自然発酵)
<1991年9月15日>
腰の痛みに慣れたものの、右手の人差し指にはぶどうとの格闘で大きな豆が出来ている、おまけに左てのひらは、ぶどうを切るはずのセルペットで、間違えて手を切ってしまった傷を覆ったバンソコがぶどう汁の色に変色している。ワイン造りはかなり過酷だが、弱音を吐いている吐いている場合ではない。たくさんの愛情を込めて摘み取られたガメイぶどうとボロボロの僕を乗せた、青いポンコツ・トラックはゆっくり、ゆっくりと昔ながらの小さなジャン醸造所に向かい、ぶどう畑を後にした。
ジャン・フォワィヤード醸造場
ボジョレー地方のぶどう園は細分化されており、小規模なぶどう栽培業者は、作ったワインを大きな町、マコン,リヨン、ヴィルフランシュなどの仲介業者に売る。しかし、少数だけが大きなぶどう園をもち、元詰めワインを造る者もある。これが本当のボジョレーとして珍重される。ここで紹介するジャン醸造所は昔ながらのぶどう摘みから始まり、ぶどうの醸造、ぶどうの圧搾など、他の近代化の進むフランスのワイン産地と異なり、良き古き時代ベル・エポック時代の姿のワイン造りを頑なに守り続ずけている。
ボジョレーのワイン造り
ガメイぶどうを積載したポンコツ・トラックは凸凹の農道を通りジャン醸造所に到着。重いプラスティク製の桶に入ったぶどうを二人がかりで清潔とは言えない深さ2m50cm、幅3mあるコンクリートのキュベ(発酵槽)の中に投げ込む。
フランスの大部分のワイン産地では、房の柄と果粒を分別し発酵の段階に入るが
ボジョレーは気にせず房丸ごとキュベにほうり込む、その上、房の緑の葉まで入ろうとあまり気にしていない、それがボジョレーこの中のぶどう達は、ぶどうの重みでぶどうの皮が破けイーストの酵母の活動によりアルコール発酵が始まる。
Q&A 汚いキュベ(発酵槽)でのワイン造り、衛生的に悪くないの
A はっきり言って悪いです。しかしこのキュベの中は発酵時に発するガスで充満していて雑菌や人間に害を与える微生物は存在することができません。僕が滞在中、隣の村で発酵槽に落ちて死んでしまったニュースがありました。葡萄から発するガスは人をも呼吸困難に落とすほどのすごい力を持っているのです。
解説 ますや ジュンロウ
葡萄の重みでジュースになり発酵した若いワインをフランスではムーと呼ぶ、この写真は、キュベの底のワイン排出口で葡萄の重みだけで生じた最高のワインを生む大事な部分である。。まだ若くワインに甘味とガスが生じているが、さらに発酵、熟成を経ると最高級のボジョレー、モルゴン・キュベ・スペシャル(Morgon・cuvee・special)が誕生する。
その後、キュベ(発酵槽)にある、まだ十分に果実身を含んでいる葡萄をシャベルで取り出し中世から伝わる手間と労力を要する振り子式の圧搾器で葡萄を搾り込む。
一言
いいワインは、手間と時間がかかる、味はともかく、手間と時間と人間のやる気が生み出したワインがいいワインなのである、それが,飲む人に伝わらなくても、そのワインはいいワインなのである。 ますや ジュンロウ